医療あれこれ

LEDと医療
2014年10月13日

 青色LED(発光ダイオード)の開発、実用化により3人の日本人研究者がノーベル物理学賞を受賞することが決まったことは、一部の論文詐称問題など日本の研究体質が世界から疑問の目で見られていた現在の状況を一転させる明るいニュースです。LEDをフルカラーの画面に用いるためには、すでに1960年代と1970年代にそれぞれに発見されていた赤色LEDおよび黄色LEDがありましたが、青色LEDの開発が必要でした。つまり光の三原色で赤と緑、そして青の光がないと白色を映し出すことができないからです。しかし青色LEDについては、その原材料になる窒化ガリウムの結晶化技術が困難で、当分不可能だろうと考えられていたところに、日本人研究者たちがこの難関を乗り越えたのでした。

 白色のLEDが登場した1996年以降、2010年頃までにLEDの照明器具が広く普及してきました。LEDは電気を直接光に変えるもので、設備が長持ちすることや、使用電力の大きな節約になります。液晶テレビやスマートフォンの画面ではバックライトに使用されますし、青色LEDによりCDDVDよりはるかに記憶容量が大きいブルーレイディスクが開発されるなど、デジタル家電において多方面に貢献します。

 「LEDと医療」という今回の表題について考えてみましょう。照明関係では、手術室で術者の手元を照らす照明は、従来のものに比べて熱を持たず鮮明に映し出すことから広く普及するようになりました。また同じく発熱量が少なく鮮明な照明であることから、飲み込んで腸内を検査するカプセル型内視鏡に用いられています。さらにLEDにより火傷などで障害された皮膚の再生が可能になり、最近ではLEDの照射により殺菌する治療法に応用されています。

 ところで、青色LEDが初めて発見・報告された1989年からわずか2025年でこれだけ私たちの生活環境に広く使われるようになったということは驚くべき速さです。受賞者で名城大学の赤崎勇先生も、社会への浸透が「こんなに速いとは思っていなかった」とおっしゃっています。同じ科学研究でも将来、問題解決につながるであろう基礎的な分野と、実用に直結する工学技術の実験・開発では随分異なるものであることを実感します。

 ノーベル賞といえば、2年前、iPS細胞で京都大学の山中伸弥先生が受賞されました。iPS細胞の発見・報告が2006年ですが、これを世界で初めて実際の臨床に使用されたのが先日報道された加齢黄斑変性症の症例ですから、一症例の臨床応用までに発見から8年かかっています。今後、iPS細胞を用いたさまざまな疾患の治療が、医療保険で普通に行われるようになるまで、一体どれ位の時間がかかるでしょうか。1015年でそこまで到達すると考えるのはかなり無理があるように思います。医療というものは、生きている人の体を対象とすることから、極めて慎重に行われるべきであるのは当然でしょうが、多くの英知を集束して可能な限り速やかに進めて行きたいものです。




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