本年の8月下旬から、デング熱に感染した人が増加していることはご存知の通りです。デング熱は熱帯病の一つであり、デングウイルスが病原体ですが、このウイルスはヤブ蚊(右の図)により媒介され、人から人への感染はありません。東京の代々木公園周辺で蚊にさされたことによりデングウイルスに感染して発症した人が最初に報道されたことから、感染者は当初、東京在住の人に発症した報道が多かったのですが、その後、埼玉、神奈川、千葉、新潟、大阪、山梨、北海道、青森、岩手、茨城、群馬、山口など全国的に広がりを見せています。
デングウイルスを持ったヤブ蚊に刺され感染すると、2~7日後に突然の発熱が現れて発症します。顔面紅潮や食欲不振、腹痛、吐き気、頭痛、筋肉痛などの多彩な症状が現れ、数日後には皮膚に発疹が出現することもありますが、ほぼ1週間で症状は軽快します。しかしまれに重症化することもあり、この場合は血液成分のうち出血を止める作用がある血小板の数が減少し、出血症状が著明に出現することからデング出血熱と呼ばれています。この重症型を放置すると胸や腹に水が貯まり(胸水、腹水)、血圧低下を起こし場合によっては生命に関わる場合もあるようです。
9月の初めに開催された日本神経免疫学会、日本神経感染症学会で、このデング熱が重症型となるメカニズムの一部が明らかにされました。それによると、デングウイルスに感染し、体内でウイルスが増殖すると、免疫を担当する白血球の一つであるTリンパ球が活性化され、これが原因でインターロイキン、インターフェロンなどのサイトカインと呼ばれる免疫関連タンパクが増殖するなどの免疫異常が重症化に関連しているといいます。しかし、これらの免疫系変化は、デング出血熱の原因なのか、重症化による結果なのか不明な部分もあり、さらに研究が進められているとのことです。
なお、デング熱の重症化は1%以下でまれとされています。しかし特に重症化しやすい場合として、日本産婦人科学会では、妊娠中の女性では通常の約3倍重症化しやすいので要注意であるとしています。妊婦さんは、虫刺され予防スプレーを使用するなど、特に蚊にさされないように注意することを呼びかけています。