赤肉とは、牛肉、豚肉、あるいは羊肉のことです。欧米人を対象とした大規模疫学研究において、これらの肉を食べる量が多い人ほど糖尿病発症リスクが高くなることが報告されています。これに対して日本人における研究では、男性では欧米人対象の研究と同じような傾向はあるものの、女性では肉摂取量と糖尿病発症とはあまり関係がないことが判っています。
肉摂取量と糖尿病発症リスクの関係を示す理由として、いくつかの要因が考えられています。まず第一に、肉に含まれる鉄分が関係するという要因があります。肉には多くの鉄分が含まれていますが、肉を多く食べると体の内部に鉄分が蓄積されてきて、脂質異常や高血圧、肥満になりやすいというのです。鉄は細胞内のさまざまな反応に重要で活性酸素というものが生成され、酸化ストレスが増加し体の組織にダメージを与えることが知られています。
また肉に多く含まれる飽和脂肪酸は、膵臓のランゲルハンス島から分泌され糖代謝を制御するインスリンの作用を低下させるともいわれています。さらに飽和脂肪酸はインスリン分泌自体を抑制するという報告もあります。これらの結果、糖代謝異常が発生しやすく糖尿病発症リスクが増加するという説があります。一方、飽和脂肪酸が多いほど心臓や血管疾患の発症リスクは増加するものの、飽和脂肪酸と糖尿病の発症には関係がないという報告もあり一定の結論はでていません。
さらにソーセージなどの加工肉は亜硝酸塩や硝酸塩などの保存物質が含まれており、これらが糖尿病発症リスクを増加させるということが動物実験により証明されています。その他、以前にこの項でも紹介したAGE(2013年11月3日の「医療あれこれ」参照)が関係することなども示唆されています。
以上のように、肉摂取と糖尿病発症については、諸説がありますので特定のことは断言できません。いずれにしろ当然のことですが、肉ばかり食べるのではなく偏りのないバランスがとれた食事をすることが最も大切だということは間違いありません。
(文献:日本医事新報、2014年3月、No.4690、58ページ)