これまでこの「医療の歴史」では欧米を中心とした西洋医学の発展をみてきました。概略のみでしたが、一応、現代医学までたどりついたところで、今回から趣向を変えて日本における医療の歴史をたどって行きたいと思います。
医療の歴史(1)でも述べたように、人間が生活しているところには常に病気やケガがつきもので、これを何とか治して傷病者を楽にしてあげたいと考えるのは世の東西を問わず考えられるところです。日本において、少なくとも何らかの記録に残る医療史の最古のものは、「古事記」「日本書紀」に残る神話の時代のことです。
古代国家の首長は、宗教あるいは呪術的な能力を持って国を治めていましたが、その国で発生する疫病にどのように対応するのかが重要な役割の一つであったと考えられます。例えば、出雲の国造りをした大国主命が登場する因幡の白兎の話があります。須佐之男命(スサノオノミコト)の末裔である大国主命の兄弟神たちは、因幡八上地方の豪族の娘、八上比売(ヤカミヒメ)に求婚するため因幡の国に向かっていました。気多の岬にやってきたとき、ワニをだまして海を渡ろうとした白兎がワニに気づかれ丸裸にされているところに遭遇します。兄弟神たちは兎に「海水を浴びておけ」と教えたのですが、皮膚はただれ、痛み苦しみ出しました。兄弟神の荷物を背負わされていたため遅れてやってきた大国主命は、真水で体を洗って、炎症を抑える効果があるというガマの花粉を塗って助けたというのです。その兎は「あなたと八上比売は結婚するでしょう」と言いましたが、その予言通り、大国主命は八上比売を妻にして出雲の国を治めることになったのでした。
この神話にあるように、首長に求められる能力は、傷病に対してどのように対応するかというものだったようです。