新聞、テレビでご存知の通り、京都大学で、脳死者から提供された膵臓から、インスリンを分泌する組織を抽出し、1型糖尿病の男性に移植することに成功しました。
糖尿病の大部分は、この1型糖尿病ではなく、2型糖尿病といって、糖尿病になりやすい体質であるDNAを親から受け継いでいる人が、食事、運動を始めとした生活習慣の乱れで発症するものです。これに対して、今回移植をうけた男性は1型糖尿病で、自分の免疫が自分の身体を障害する自己免疫などが原因で、膵臓のランゲルハンス島β(ベータ)細胞が破壊されてしまうものです。β細胞はインスリンを分泌して血糖値をコントロールしていますが、1型糖尿病の人はこれができなくなり発症するタイプの糖尿病です。このため1型糖尿病の治療は、毎日インスリン注射が必要になるのです。
報道によると、今回移植を受けた男性も22歳の時にこの1型糖尿病を発症し、インスリン治療を受けていたそうですが、インスリン量が少しでも過剰になると低血糖発作を繰り返していたそうです。
膵臓のβ細胞を含む組織は直径が0.1~0.5マイクロメーター(1 mmの1/10~1/2)で、この抽出液約10 mlを皮膚の上から肝臓内の門脈という血管に留置したカテーテル(管)を通して点滴のように注入します。そうすると注入された膵臓の組織が肝臓に生着して、膵臓の働きを始めるというわけです。
門脈は、小腸などで吸収された栄養分を肝臓に運び込む血管です。通常は、この門脈を流れる血液中の糖分の変化に応じて膵臓からインスリンが分泌される仕組みになっています。ですから肝臓の中に移植された膵臓組織があると、いち早く門脈の血糖値の変化に反応してインスリンを分泌することになりますから、より効率的に血糖値がコントロールされるというわけです。