ピロリ菌は正式名称をヘリコバクター・ピロリといい、胃の中に生息している細菌です。胃の一番奥、出口の部分を幽門部(ピロルス)といいますが、このピロルス近くにいるヘリコプターのようにラセン状の形態をしたバクテリア(細菌)であることからヘリコバクター・ピロリという名称がつけられ一般的にピロリ菌と呼ばれています。
食べ物を殺菌するために胃の中は胃酸のため強い酸性になっていますので、昔から胃の中に生息する細菌などいるはずがないと思われていました。しかし1983年オーストラリアのウォーレンとマーシャルが胃に生息するピロリ菌を発見したのです(彼らは後にこの業績によりノーベル賞を受賞しています)。
ピロリ菌の感染経路は飲み物や食べ物を介して口から感染します。乳幼児に感染することが多く、欧米に比べて日本での感染率が高いことが報告されています。50歳代、60歳代では人口全体の約45%がピロリ菌に感染しているとされています。しかし近年は衛生環境も良くなり、特に若年者の感染率は低くなっています。
ピロリ菌がいるとどのような病気になるのかというと、胃炎、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃ガンなどさまざまな胃疾患の発生と関連する以外に、免疫異常で血小板が減少する病気(特発性血小板減少性紫斑病)や慢性じんま疹などとも関連するとされています。これらのうち注意するべきものは胃ガンでしょう。
胃ガンはかつて日本人に多い悪性腫瘍で、死亡率も高率でした。近年、健診などがきっかけで早期ガンのうちに発見されることが多くなり、治療成績もたいへん良くなっています。さらにピロリ菌検査をして、もし陽性なら抗生物質で除菌することが胃ガン予防になると考えられます。右の図は日本ヘリコバクター学会が発行している冊子から引用したものですが、これからも明らかなようにピロリ菌を除去することが胃ガンの発生を予防することにつながります。
最近、学校検診でピロリ菌検診を実施し胃ガンを撲滅しようという提唱があります。また胃ガン早期診断ということでは、ペプシノーゲンという胃粘膜の異常を調べる検査とピロリ菌検査を組み合わせて胃ガンの危険度を評価する試みがなされています。もし胃ガンの危険度が高いとなれば、最終的に胃カメラの検査をします。ガンの確定診断はガン細胞を確認することですから、バリウムによるX線検査ではなく、最終的に細胞を調べることができる胃カメラが必要なのです。早期胃ガンなら90%以上治りますが、進行ガンになると50%しか治らないので、早期診断・早期治療がいかに重要かはいうまでもないと思います。