5月16日から18日まで熊本で第56回日本糖尿病学会が開催されました。その中では、5月16日付けのこのページでもご紹介した「ガン発症のリスクは糖尿病で高い」など多くの興味深い報告がありました。そのうち、今回は、最近、減量法や糖尿病治療として低炭水化物食(糖質制限食)がよいと言われていますが、これが本当に有効なのかという報告に注目してみました。
低炭水化物食は短期的な減量や動脈硬化のリスクを改善することに有効であることが示されていますが、「長期的に見てこの低炭水化物食が本当に正しいのか」については一定の結論は得られていませんでした。日本糖尿病学会では、「極端な糖質制限は健康被害をもたらす危険がある」とう見解を発表していますが、結論は出ていません。今回の学会では、国立国際医療研究センター病院から、多くの症例を集めた解析(メタ解析)の結果が報告され、低炭水化物食は長期的な効果は認められず、逆に有意な死亡リスクの上昇を認めたとの報告がなされました。
約27万人の健康な成人を5年から26年間追跡調査したところ、低炭水化物食群では高摂取群に比べて1.31倍死亡リスクが高かったそうです。しかし、心臓血管疾患による死亡リスクをみると両者に統計学的な有意差はなく、死亡に至らない心臓血管疾患を発症するリスクも差はなかったとの結果でした。
低炭水化物食は血圧を下げ、血糖や脂肪分を減少させる短期的な効果のあることが認められており、これを続けることによって心臓血管疾患の発症を減少させることが期待されましたが、そういった長期的効果はなく、むしろ何らかの原因で総死亡リスクが上昇したという結論です。
この報告だけで、「低炭水化物食はよくない」と結論づけることには無理があります。この報告は今までの症例を解析したものですが、本当のところはどうなのか?を調べるためには、正しい方法で構築された臨床試験のシステムを用いて、今後、低炭水化物食の人はどうなっていくのかを調べる(長期介入研究といいます)ことが必要であると思われます。