錬金術とは、どこにでもある金属から、さまざまな手法を用いて、金などの貴金属を作ろうとするものです。中世のヨーロッパでは、これが盛んに行われ、科学というより魔法に近い意味や、お金儲けのからくりのようにも考えられています。ある技術を用いると、人間が不老不死になるなどといったことが信じられていました。
しかしその試行錯誤の過程から、硫酸や塩酸などの化学薬品が発見されてきたことは、学問的に大きな科学的発展ということができます。錬金術師の中でも医学的発展に貢献した人がパラケルスス(1493~1501)でした。パラケルススとはあだ名で、本名はフィリップス・アウレオルス・テオフラトス・ボンバストス・フォン・ホーエンハイムという大変長い名前だそうです(右の写真)。それまでの医薬品といえば、ほとんどが草根木皮であったものが、パラケルススは水銀、アヘン、砒素、銅、硫黄など多くの化学物質を病気の治療に用いました。現在ではこれらの物質のほとんどが、有害物質や毒物のたぐいですが、化学物質を治療薬に取り入れた最初であったことは医療の発展に大きく貢献したことになります。そこでパラケルススのことを「医化学の父」などと呼んだりしています。
パラケルススはさらに、人体には水銀、硫黄、塩の
三大要素が重要であり、体内に塩が沈殿した結果、病気が発生すると考えて、この沈殿した塩を溶かすために、さまざまな鉱物を用いることをすすめたので
した。この考え方は、ギリシア、ローマから受け継がれた古典的医学とは大きく異なり、現在の臨床内科医としての姿勢でした。実際彼はすぐれた臨床家であったそうで、多くの著書や講演記録が残されています。
ちなみに「化学療法」は文字通り化学物質を使った治療法ということですから、現在の化学物質を薬剤として用いた治療法はすべて化学療法ということになります。しかし私たち医療者は「化学療法」という言葉を、抗ガン剤という化学薬品を使ったガン治療の意味で使うことが多いように思います。