「逆流性食道炎」という病気がありますが、これは胃液が食道に逆流して食道の粘膜に炎症をおこすものです。胃液は食べた物が胃にたまっているうちに消毒をするため強い酸性になっており胃酸といわれます。胃袋の壁はこの胃酸に耐えられるような構造になっています。しかし食道内壁の粘膜は本来、胃液が流れ込むことはないので、強い酸性の胃液にさらされると粘膜が傷害され、胸やけなどの症状が起こるのです。
普通は胃液が食道に逆流することがないように下部食道には括約筋があり、飲み込んだ食物が通るときやげっぷが出るとき以外は通路が閉じているしくみになっています。しかし何らかの原因でこの括約筋作用が低下すると「逆流性食道炎」が発症する要因となります。この現象を「胃食道逆流症(GERD)」といいます。構造的な問題でこの「胃食道逆流症」が起こるものの一つに「食道裂孔ヘルニア」という病気があります。食道裂孔とは胸部と腹部を隔てている横隔膜のうち食道が通る穴のことで、ヘルニアとは体の中の臓器が本来あるべき位置から脱出することです。「食道裂孔ヘルニア」は食道に続く胃の一部が食道裂孔から胸部の方に脱出している状態で、年齢とともにこの状態になっている人が多いといわれています。この状態になると下部食道の括約筋が作用しにくく、逆流がおこってしまいます。ちなみに「食道裂孔ヘルニア」に対しては手術などの外科的治療が必要になるようなことはほとんど無く、もしこれが原因で胸やけなど「逆流性食道炎」の症状が強いとき、胃酸を抑えるお薬による内科的治療が通常行われます。
前置きが長くなりましたが、太っている人は「逆流性食道炎」による胸やけがよく起こるのでしょうか。太っている人は腹部の脂肪組織が胃を圧迫して逆流がおこりやすい、あるいは逆流の原因になる「食道裂孔ヘルニア」が起こりやすいということが欧米では報告されています。しかし日本人での疫学研究では肥満が逆流の原因になるという結論は得られていません。欧米人に比べて日本人では高度の肥満者が少ないことも影響しているかも知れません。
しかし日本でも「逆流性食道炎」の人に食事指導など生活改善を行うようにすると胸やけなどの症状が改善したという報告もあります。また脂肪分の多い食事を続けていると食道粘膜の感受性が高まり、胸やけ症状が出やすいとも言われています。
いずれにしても規則正しい生活などで、肥満をなくしていくと胸やけなどの症状がなどの症状がよくなることが期待されると思います。