医療あれこれ
アディポネクチンは本当に善玉物質か
脂質や糖質の代謝が正常状態から外れると、動脈硬化が促進され、高血圧、糖尿病、脂質異常症などのいわゆる生活習慣病が発症します。これを予防するため体の脂肪細胞からはさまざまな生理活性物質が分泌され、脂質代謝や糖代謝を円滑にするように作用しています。この生理活性物質の一つがアディポネクチンです。
アディポネクチンの働きは、傷害された血管を修復して動脈硬化を予防し、血圧を低下させ、さらにインスリンの作用を高めて糖尿病にならないように作用するなどが知られています。生理活性物質のうちでも病気の予防に作用する善玉の物質です。
メタボリックシンドロームは内臓脂肪が蓄積した状態であることはご存じの通りですが、皮下脂肪など体の他の脂肪とは逆に内臓脂肪は血液中のアディポネクチン濃度の低下を引き起こします。その結果、糖尿病などのメタボリックシンドロームの症状が出現することが判っており、血液中のアディポネクチン量が多いほうがよいと思われています。しかしこれまでアディポネクチンと糖尿病の関連については解析結果が蓄積されていますが、高血圧との関連は十分な情報がありませんでした。そこで今回、高血圧患者さんにおけるアディポネクチンの関連について解析がなされました。
調査研究結果を公表したのは熊本大学の研究チームで、高血圧で受診中の1200名余りを対象にして、3年間にわたり血中アディポネクチン濃度と心臓・血管疾患の関連が検討され、その結果がイギリスの学術雑誌に Scientific reports に掲載されています。
その結果、血中アディポネクチン値が最も多い群では脳血管、心臓、腎疾患の発症率が有意に多いことが明らかとなりました。これまで血中アディポネクチン値を高めることが生活習慣病などの発症を予防することにつながるとされていますが、必ずしもそうではない可能性があることを示す研究結果です。
どのような場合でもいえることですが、一つのデータだけで全体の動向を把握することが難しいことも想定されます。今後さらなる研究データの蓄積が期待されるところです。