医療あれこれ
野菜ばかり食べていては脳卒中になる?
最近の健康志向で、肉や魚を食べない菜食主義者が増えている傾向があるようです。確かに肉食の人は、魚食や菜食の人に比べて心筋梗塞や脳梗塞になるリスクが高いことが以前より考えられていました。心筋梗塞や脳梗塞は血栓で血管が閉塞して発症するものですから、肉を多く食べる人では血液が固まりやすい状態となりこれらの疾患が発症しやすいのです。イギリスでは菜食主義者が1700万人もいるとされていますが、はたしてこれは実際に心筋梗塞などの予防になっているのかどうかを調べる目的で、オックスフォード大学の研究グループが大規模な長期間にわたる調査研究をおこないました。
(BMJ 2019; 366: 14897)
研究対象は、20歳以上の男女約4万8,000人で、肉食群約2万4,000人、魚食群約7,500人、そして菜食群約1万6,000人の3群に分けて、18年以上の間、脳卒中や心筋梗塞の発症を観察しました。ここで肉食群とは肉は食べるしその他に魚も野菜も食べる人で、何でも食べる人の群と言えるでしょう。魚食群はほぼ何でも食べるけれど肉だけは食べない人で、菜食群の人は肉と魚は食べず野菜を食べる人ですが、牛乳やチーズなどの乳製品は食べる人達と定義しています。
追跡調査の結果、3群全体で心筋梗塞788例を含む虚血性心疾患を発症したのは2,820例、脳卒中発症は1,072例(このうち脳梗塞が519例、脳出血は300例)でした。これを食事内容との関連から疾患発症危険度をみたところ、心筋梗塞などの虚血性心疾患は、魚食群と菜食群の両方とも肉食群に比べて危険度は低いことが判りました。一見して肉食は心筋梗塞になりやすいような結果ですが、さらにコレステロールや高血圧など一般的な心臓血管疾患の危険因子を考慮に入れて危険度を計算し直すと、肉食、魚食、菜食群の間に統計学的な有意差はないという結果が得られました。
一方、脳卒中の発症と食事の関係をみた結果は、脳梗塞、脳出血などすべての脳卒中発症と食事の関係では、虚血性心疾患とは異なり、菜食群では肉食群と魚食群の両方に比べてに脳卒中発症の危険度が高いという結果が得られました。さらに脳卒中のうち、脳の血管が破綻して出血がおこる脳出血など出血性脳卒中の発症危険度に限ってみるとさらに菜食群で危険度が高いという結果でした。つまり肉や魚を食べないで野菜中心の食事をしていると脳卒中発症の危険度が高いことが明らかになったのです。
今回の調査研究結果の概略は、野菜中心の食事は心臓病の予防にはならず、逆に脳卒中の危険性を増加させるというものです。菜食主義は血管、ことに脳の結果が弱くなり疾患を引き起こすという可能性を示しています。単純に考えると片寄った食事はよくない、肉も魚も野菜もバランスよく摂取するべきだという当然のことが確認されたというものでしょう。しかしこの調査研究はすべてが終了した訳ではなく今後のさらなる解析研究が待たれます。