医療あれこれ
動脈硬化は人間特有のもの?
先日のこの項で、動脈硬化は心臓病や脳血管疾患の基礎になるものだが、中年以降になってから心配しなくてはならないものと考えていると大間違い。子供のうちから素因があって動脈硬化がすでに始まっているという話題をご紹介しました。(2019年7月18日付子供の時から動脈硬化のリスクがある)またずっと以前にこれもこの項でご紹介したことですが、数千年前に生きていた人のミイラにも動脈硬化があったことが明らかとなっています。(2013年3月14日付古代ミイラの3割に動脈硬化があった)こうしてみると人にとって動脈硬化というものは、いつの時代でも、何歳でも心臓血管疾患の原因として存在している仕方がないものだと考えてしまいます。
動脈硬化の原因は、いわゆる生活習慣病で高血圧、糖尿病、コレステロールなど脂質異常症、の他、喫煙なども大きな要因として考えられます。これらはいずれも人間に特有な要素で、特にタバコを吸う人以外の動物はまあ珍しいものでしょう。とすると動脈硬化は人間にとって特有な病態なのでしょうか。
このほど筑波大学の研究グループが、人間と、人間に近い哺乳類であるチンパンジーの遺伝子を研究して、チンパンジーにはない遺伝子変化が人間には認められこれが動脈硬化発症の原因であることを突き止めました。
(Kawanishi K. et
al. ProNAS, 2019 116 (32) 16036-16045; doi.org/10.1073/pnas.1902902116)
これはCMAH遺伝子というものなのですが、チンパンジーのほか人以外の動物には存在しますが、人にはありません。調査すると、もともと人も持っていたのですが、およそ200~300万年前に人に生じた突然変異によって失われたというのです。動物実験として、この遺伝子を持たないネズミをモデルとして作成し、通常のネズミと比較検討したところ、CMAH遺伝子を持たないネズミには動脈硬化が認められたのだそうです。以前の動物実験ではコレステロール豊富な食餌を与えるとウサギには動脈硬化が見られるけれど、ネズミでは明らかな動脈硬化が見られないことがありました。このことからもCMAH遺伝子は動脈硬化進展を予防する効果があるけれど、人間にはこの遺伝子はなく、人は年齢とともに、あるいは若年から動脈硬化が特徴的に起こってくることが考えられます。しかしいうまでもなく、肥満、運動不足、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの危険因子が重なってくるとその危険度は増加してきますから注意しましょう。