医療あれこれ
がんは糖尿病の重大な合併症
糖尿病の合併症は、改めて説明するまでもなく、視力障害を引き起こす網膜症、腎機能障害からひいては人工透析まで必要になる腎症、手足の感覚がなくなる神経障害、さらに大血管障害である心筋梗塞や脳梗塞が知られています。これらの予防が糖尿病治療の究極の目標であることはいうまでもありません。一方5月6日付の本項(統計では肺炎による死亡率が減った?)でご紹介したように、40年以上前から日本人の死因順位で断トツの第一位は悪性新生物(がん)です。がんと糖尿病の関係については、これも以前にご紹介したように(がん発症の危険性が糖尿病で高くなる:2013年5月15日)、糖尿病患者さんではがん発症が合併する確率の高いことが知られています。この項でも説明したように、肥満、運動不足、喫煙、過度の飲酒、さらには加齢などは糖尿病発症の危険因子ですが、これらはがん発症の危険因子でもあることから糖尿病とがんが合併する確率が高くなることが当然予想されます。
糖尿病における高血糖を是正するため、発病当初は膵β細胞から多量のインスリンが分泌されますが、インスリンには細胞増殖作用があり、がん細胞の増殖を促進してしまいます。また高血糖自体もがん遺伝子変異から、がん発症率増加につながります。また逆にがんに対する抗がん剤治療中に薬剤の影響でがんが発生しやすい状況になることも考える必要があります。
これらのことから糖尿病治療には、がんの発生リスクがあることを念頭においた対応が必要です。糖尿病治療の原則である生活習慣の是正はがん発症を予防することにもなり、重要な注意点の一つです。また糖尿病ではない人に比べてより厳密にがんの早期発見に注意していく必要があります。定期的な血液検査はもちろんのこと、X線検査などの画像検査の実施も重要になるでしょう。逆に新たな糖尿病が急激に発症する、あるいは急激な悪化は、内臓がんのうちでも比較的臓器発見が難しい場合が多いすい臓がんの発症を疑わせる症候です。
このように糖尿病診療に携わる医療者にとって、がんとの関連においても注意深い経過観察が求められているのです。
(引用文献:大橋健. Astellas Square vol.15 10. 2019)