医療あれこれ
悪玉コレステロールはできるだけ少ない方がよいか?
コレステロールには、主として動脈硬化を増悪させる悪玉コレステロール(LDLコレステロール)と動脈硬化を予防する善玉コレステロール(HDLコレステロール)の2種類があることはご存じの通りです。HDLコレステロールが少ない場合、LDLコレステロールが多いのと同様に動脈硬化が増悪するのでよくないことが判っています。ではLDLコレステロールは少なければ少ないほど体にとってよいのでしょうか。この疑問を解決する目的でおこなわれた臨床研究の結果が公表されています。
これはアメリカのハーバード大学医学部の研究チームがまとめた論文ですが、(Rist P et al. Neurology May 07, 2019, 92)
45歳以上のアメリカ人女性2万7千人あまりを対象として、平均19.3年追跡調査しました。その結果、LDLコレステロールが正常高値の100~129.9mg/dlの人たちに比べて、LDLコレステロールが低値である70mg/dl以下の人たちは脳出血(出血性脳卒中)の危険性が2.17倍多いことが判りました。一方、中性脂肪についても、空腹時の値が高かった人に比べて、74mg/dlと最も低値を示した群では脳出血の危険性が2倍に増加することが明らかとなりました。
研究者らは、これらのLDLコレステロールや中性脂肪が少なすぎれば脳出血の危険性が増加する原因は明らかではないけれど、血管の強度が低下するなどの機序が考えられるとしています。また別の専門医は、LDLコレステロールが低下することによる脳出血の危険性より、増加することによる脳梗塞、心筋梗塞の危険性が高まることのほうがはるかに問題だと指摘しています。
コレステロールというと、動脈硬化を促進して血管が閉塞させる悪者のイメージが強いですが、人が生きていくために必要なホルモンの原料であり、このホルモン低下は人の身体活動性を障害すると想定されます。何事もほどほどでないと、行き過ぎはかえって問題を起こすことを示した実例になる研究結果といえるのではないでしょうか。