医療あれこれ
脳梗塞の血栓回収療法
脳の動脈が閉塞すると、その先への血流が途絶して脳細胞が虚血性壊死、つまり酸素欠乏になって細胞が死んでしまう状態になりますがこれが脳梗塞です。動脈の閉塞機序は、動脈硬化など血管壁の障害が原因となってその部位に血栓が増大していき血管を閉塞する脳血栓と、中枢側つまり心臓に近い方から血液の塊(塞栓子)が流れ着いて血管を閉塞する脳塞栓があります。
いずれにしろ血管を閉塞するものは血液の塊(血栓)ですから、脳梗塞の超急性期(発症後4.5時間以内)であれば、この血液の塊を溶かせてしまう血栓溶解療法が用いられます。用いられる薬剤はt-PA(組織プラスミノゲン・アクチベーター)ですが、この物質はもともと血液が固まりかけると血管内で生成され血管閉塞を予防するような仕組みになっています。(血液と血管3:線溶系のしくみ参照)しかし脳梗塞になるような規模の大きな血栓では、血管内で自発的に生成されるようなt-PAでは量が不足して役に立ちません。そこで従来から、これを薬剤にしたt-PA製剤を用いて、急速に投与する血栓溶解療法がおこなわれてきました。
近年、脳梗塞超急性期に、薬剤で血栓を溶解するのではなく、血管内カテーテルにより物理的に血栓を回収し血管を再開通させる血栓回収療法も治療法の一つとして用いられるようになりました。
脳卒中治療ガイドライン2017では、前方循環系、つまり脳の前の方へ血液をながす血管のうち主幹動脈(太い動脈)である内頚動脈または中大脳動脈における血栓に対して、この血栓回収療法が推奨されています。治療開始は発症後6時間以内であることが条件となります。
一方、頭の後ろの血液循環(後方循環系)では、もし血流が再開通しなければ致死的になるためこの治療法を実施する根拠は確立していません。しかし確実に血栓を除去できる方法であるため、後方循環系に対しても、これを実施することが有効であることを調べる臨床試験が現在、進行中です。
また発症後6時間が過ぎてしまっても、もし脳梗塞に陥った部分の周囲に、ペナンブラと呼ばれる未だ脳梗塞には至っていないけれど、やがて脳梗塞になってしまう部分があった場合、この部分を救うことが脳梗塞部分の拡大を防ぐことになります。そこで発症6時間~24時間の症例における血栓回収療法の有効性を示す成績が集積されつつあります。
いずれにしても、脳卒中症例をいかにして早く適切な医療機関に搬送することができるか、が治療の成否を左右しますから、救急現場で傷病者に対応する救急救命士の役割がますます重要になってくることは言うまでもありません。
引用文献:井島大輔、西山和利. 日本内科学会雑誌107、(2018.8)、1462~1469.