医療あれこれ

アルプスのミイラは高脂肪食を食べていた

 1991年、アルプス山脈のエッツ渓谷で発見された5300年前のミイラ、通称アイスマンは生前脂肪の多い食事を好んで食べていたことが、胃の内容物の分析で明らかとなったそうです。

(Maixner F. et al Current Biology (28) 2018, 2345-2355)

 アイスマンは発見されてから20年間は凍結されたままの状態で保管されていたのですが、以前NHKスペシャル(2013324()午後900分~949)で放送されたように、2013年になって解凍され身体各所の詳細な分析が開始されたといいます。今回の報告もその成果の一環と思いますが、胃内容物分析によりミイラの食生活が明らかになることは大変興味深いものです。

 論文の著者Maixner氏らが、アイスマンの胃の内容物を詳細に分析したところ、アイスマンが最後に食べた食事の約46%は脂質であったと報告しています。具体的な内容物は、野生のヤギやアカシカの肉、穀類(ヒトツブコムギ)、有毒な山菜(ワラビ)などが含まれていました。野生動物の肉は生のままで、あるいは干した状態で食べたと想像され、有毒なワラビが含まれていたのは、その葉で食べ物を包んで食べていたのでしょうが、結果的に生肉を食べて寄生虫に感染することの予防効果になっていたと思われます。以前の報告では、アイスマンの腸には鞭虫のような寄生虫が、胃にはヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)が検出されたとありました。古代人が自然に身に着けた生活習慣が彼らの生存を支えたのか、あるいは、そのような生活習慣をしていた人種だけが古代を生き抜いてきたのかなどを想定すると感慨深いものがあります。

また現代では山歩きをするエネルギー源としては、炭水化物がよいと思われますが、寒冷の高地という過酷な生活条件で生命を維持していくためには、よりエネルギー効率の良い高脂肪食が適していたのでしょう。また古代人が高脂肪、高カロリー食を好んで食べていたとすると、これは現代における脂質異常症や糖尿病の原因に結び付くと思われます。人類にとって原始時代に過酷な生活状態を生き抜くために身に着けた生活環境が、現代人にとっては生活習慣病の原因になってしまうという事です。以前に鹿児島大学の丸山征郎先生が、生活習慣病の人は「背広を着た縄文人」であると述べられていたことが想起されます。