医療あれこれ
女性の高血圧症
高血圧の診断基準はこれまで収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上とされてきました。しかし2017年11月米国心臓病学会は130/80以上を高血圧と定義すると変更したことが公表されました。この変更の根拠は、大規模な臨床研究において、心臓病や血管障害の危険度が120/80未満の人に対して120~129/80~84の人は1.24倍、130~139/85~89の人は1.56倍高くなる、つまり130/80以上で血管合併症のリスクが有意に高くなるという根拠に基づいたものです。つまり血圧はこれまでに比べて、できるだけ低い方が望ましいという考え方になったのです。少しぐらい血圧が高くても自覚症状がなければ放置しておいてもよいという考えはこれまで以上に改める必要があることを示したものです。
ところで高血圧というと男女で比較すると、男性の方が圧倒時に患者さんの数が多いような印象を持つ人が多いと思います。
しかし右のグラフを見て頂くとお解りのように、若い時は確かに男性の高血圧患者さんは多いのですが、高齢になると女性の方が多いことがわかります。なぜかというと、閉経前と後では女性におけるホルモンバランスが異なってくるという考えてみれば当然のことが理由になっているのです。閉経まで女性の体内で分泌されていた女性ホルモンが、閉経とともに減少してきます。これに伴ってレニン・アンギオテンシンなど血圧を上昇させるホルモン分泌が相対的に増加してくることによると考えられています。若年で血圧はむしろ低めであった女性が年齢を重ねると高血圧になっていくことは、若いうちにこれに対する対策を立てていくことが必要になります。
若い女性の高血圧で最も問題となるのは、妊娠中に血圧が上がってしまう妊娠高血圧症候群です。妊娠中に血圧の変動がおこるのは、子宮内に胎盤が形成され、これに伴って血管全体の変化がおこることによるといわれています。妊娠中の高血圧は早産、低体重児出産や胎児死亡のリスクが高くなり帝王切開により出産する割合も多くなることが知られています。しかし出産が終わると血圧は速やかに正常にもどることが多く、育児など出産後の生活環境変化により、血圧に対する注意がなされなくなる傾向があるようです。将来、発症してくる可能性がある高血圧に対する経過の観察が必要と思われます。若い時から自分自身で血圧測定をする家庭血圧測定の習慣を身に着けておくことも必要なことと思われます。
文献:三戸麻子 女性の高血圧の病態と高圧療法. 日本内科学会雑誌、107(2018)、713-19.