医療あれこれ

家庭血圧測定の重要性

 高血圧の判断において、収縮期血圧(最大血圧)が140 mmHg以上、かつ/または拡張期血圧(最小血圧)が90 mmHg以上であったとき、その程度によって高血圧と判断されます。しかし血圧というものはその状況によって大きく変動するものです。例えば、通常は正常の血圧であっても、診療所へ受診に来た人がそこで血圧を測定すると高血圧の範囲に入ってしまうことがよくあります。これは病院や診療所という特別の場所にいるというだけで緊張することなどもあり、通常より血圧値が高くなってしまうことなので、医療職が身に着けている白衣が原因ということから「白衣高血圧」と呼ばれています。通常とは異なる血圧値になることはこのような場合が多いのですが、逆に通常は血圧が高いけれど、病院や診療所で測定すると高くない場合もあります。これは高血圧という病気がマスクされていて診療所にいる医療者には判らないということから「仮面高血圧」と呼ばれています。

この仮面高血圧で問題になるのは、朝起きた時の血圧が高い「早朝高血圧」と呼ばれる場合です。早朝には急性の脳卒中や心臓病が発生しやすいことから、この時間帯で血圧が高いと危険性が高まるということになります。

 今さら改めて説明するまでもないでしょうが、このように特に高血圧の診断・治療における血圧測定あたっては診療所で血圧を測定しているだけでは十分ではなく、日常の家庭での血圧測定が重要なのです。当院で高血圧治療を受けてもらっている方々のほとんどが、各自の血圧計を持って頂いて家庭血圧を測定し、血圧手帳に記入してもらっているのはこのためです。

 さまざまな臨床研究における血圧値は、これまで病院・診療所で測定する結果をその人たちの血圧値として解析が進められていました。しかし家庭血圧を用いた研究の方がより重要であることから、より信頼性が得られる家庭血圧を用いた検討がなされる場合も多くみられるようになってきました。その一つの例が、「家庭血圧の日々変動が認知症発症のリスクになる」という報告です(Circulation, 2017; 136: 516-525)。これはずいぶん以前に(2012年7月17日付)この項でご紹介した久山町研究での成績を九州大学衛生・公衆衛生学の研究チームが解析し報告しました。福岡県久山町在住で認知症を発症していない60歳以上の人1674人を対象として追跡調査したものです。その結果、家庭血圧の日々変動が大きいことが、あらゆる認知症の発症と統計学的に有意に関連することが明らかになったというものです。

 この研究からは日々の血圧変動が将来の認知症発症を予知する指標となるかどうかについては、さらなる検討が必要であると報告者らは述べています。しかしこの研究のように病院・診療所で測定する血圧ではなく、家庭血圧での検討がなされたことは注目すべき点だと思われます。