医療あれこれ
原発性アルドステロン症
血圧は動脈の中を流れる血液の圧力ですが、心臓が収縮して血液を動脈に押し出した時の圧力(最大血圧;収縮期血圧)と、心臓が拡張して押し出すための血液を左心室にため込んだ時の圧力(最小血圧;拡張期血圧)という2種類の血圧があります。この圧力はもともと水銀が入ったガラス管をどれだけ(何ミリメートル)押し上げることができるかという単位:mmHgで表示されますが、正常では最大血圧が130 mmHgまで、最小血圧が85 mmHgまでですが、140 mmHg/90 mmHg以上に上昇した状態を高血圧と定義しています。日本では高血圧の患者さんは約1000万人いるとされ、全人口の約10分の1になります。
高血圧の原因と考えられる明らかな疾患がある人(いわゆる二次性高血圧)は高血圧全体の10分の1で、9割以上の人は明らかな原因疾患がない、いわゆる本態性高血圧と呼ばれる患者さんです。普通、高血圧だからこれを下げておかないといろいろな合併症が起こってくると、血圧を下げる薬(降圧剤)を服用してもらっている患者さんのほとんどがこの本態性高血圧ということになります。これに対して、二次性高血圧の場合は、明らかな原因疾患がありこれが原因で血圧が上昇しているのですから、この原因疾患を治療することができれば、理論的には降圧薬を服用しなくても血圧が下がってくることになります。
最近、これまでは十分な検査がなされずに本態性高血圧といわれていた患者さんのうち、本当は二次性高血圧だったという場合が意外に多いことがわかってきました。このうちでも特に血圧を上昇させるホルモンが分泌されて高血圧になる内分泌性高血圧が注目されています。この内分泌性高血圧のうちでもさらにアルドステロンという副腎皮質から分泌されているホルモンの値が高くなり高血圧となっている原発性アルドステロン症が注目されています。高血圧患者さんのうち20人に1人がこの原発性アルドステロン症であるといわれます。
アルドステロンは血液中のナトリウム(Na)を上昇させ、カリウム(K)を低下させる作用があります。血液中のナトリウムは塩化ナトリウム、つまり食塩として存在しますので、アルドステロン作用が過剰になると血液中の塩化ナトリウム(食塩分)が増加して高血圧が発生します。普通の本態性高血圧の人でも食塩を制限しなければいけないというのは、食塩摂取が過剰になるとアルドステロンの作用に関係なく血液中のナトリウム(Na)が上昇して高血圧になってしまうという理屈です。アルドステロンは強制的に血液中のナトリウム(Na)を増やす作用を持っているので自動的に高血圧が発生してしまうことになるのです。
原発性アルドステロン症ではないかと疑われる症例は、40歳以下の若い人の高血圧で、血液中のカリウム(K)が低値を示すことなどが挙げられます。原発性アルドステロン症では本態性高血圧に比べて脳卒中や心筋梗塞になる確率が高くなるともいわれていますので、一度は簡単なアルドステロンの検査を受けたほうがよいでしょう。血液中のアルドステロン濃度を測定するのですが、このホルモンは採血時間や体の状態が変化すると変動しやすいことが知られていますので、精密検査をするためにしばらく安静に横になっていてもらって採血することが望ましいのです。しかし簡易的に随時で採血することも可とするといわれています。異常があればまずアルドステロンを抑える新しいお薬もありますので、一度検査を受けてみてはいかがでしょうか。