医療あれこれ

高齢者肥満の問題点

agedobesity.gif

 内臓脂肪が蓄積し高血圧、糖尿病、脂質異常症が合併して発症するメタボリック症候群は心臓血管疾患の大きな危険因子となりますが、このメタボリック症候群の発症は加齢に伴って増加することが知られています。さらにメタボリック症候群は内臓脂肪蓄積型の肥満で、高齢者におけるこれらの肥満傾向は身体機能に影響を及ぼしていることが最近明らかとなってきました。つまり高齢者の肥満は歩行速度、階段上がり、イスからの起立などの身体機能を低下させ、移動能力障害の危険因子となるというのです。これをさらに悪化させるのが加齢による筋肉量の減少であるサルコペニアです。(以前にこの項でもご紹介しました。サルコペニア←クリックして参照して下さい。)サルコペニアと肥満が重なると、要介護状態になる率は男性で8.7倍、女性で12倍高率であるとされています。

 これらを予防するためには減量による治療が考えられるのですが、高齢者の場合、サルコペニアと骨粗鬆症に見られるように骨量の減少にも注意が必要です。減量のため食事療法をおこなうとき、運動療法を併用しないとサルコペニアが悪化する可能性があることが指摘されています。

 一方、高齢者というと認知機能低下が問題となりますが、メタボリック症候群のある高齢者は認知機能低下や認知症発症と関連することがしられています。これらに対して身体活動を高める運動療法が認知症発症に対して防御的な効果があることも知られています。この場合も、食事療法だけで肥満傾向を改善するより食事療法と運動療法を併用する方がより効果的であるとの結果が報告されています。これらの効果は少なくとも75歳未満の前期高齢者においてみられるといいます。

 では運動ができないほどの要介護状態や骨粗鬆症、発症してしまった認知症の高齢者ではどうかというと、これらに対して運動療法を併用して減量をおこなっても効果はないとのことです。とくに80歳以上の肥満高齢者では、減量によるメリットを示す成績はありません。若いうちに肥満にならないよう、あるいは減量に努めておくことが重要ということでしょうか。

引用文献:荒木厚:高齢者における過栄養の問題. 日本医事新報 No.4797.26-32.2016.4.2.