医療あれこれ
服薬アドヒアランス
診療所を受診して、担当医からお薬の処方を受けたとき、治療においてそのお薬がどのような意味を持っているか、つまりなぜ服薬しなければならないか、を患者さんが十分に理解して服薬することを「服薬アドヒアランス」といいます。
この言葉は、これまでは「服薬コンプライアンス」と呼ばれていたものですが、コンプライアンスの意味は「命令に応じる」ということで医師の指示のもとに患者さんがお薬を服用するということになります。そこには患者さんの病気や服薬の必要性に対する理解の有無は含まれていません。つまり「何も考えずに医師の言うことを聞いておけば良い」という意味にもなってしまいます。昔の医療ならこれでよかったかも知れません。この項でも以前に「医療あれこれ:医療の歴史(3)ヒポクラテスの誓い」で少しご紹介しましたが、(下線部分をクリックするとご覧になれます)このように患者は医師の言うことを聞いておけというスタイルを「パターナリズム」といいます。パターとはパパとかファーザーといったお父さんのことで、父親が子供に対する接し方のモデルであり「家父長主義」あるいは「親権主義」といった日本語にあてはまります。子供は成長していないから何もわからないだろう、すべてのことは親の言うことを聞いておけばうまく事がすすむ、という意味です。医療でいうともちろん父親が医療者、子供が患者という関係になります。ちなみにパターナリズムは医療関係に限ったことではなく、例えばバイクに乗るときのヘルメット着用や、自動車に乗るときのシートベルト着用などもパターナリズムと言えるかも知れません。ヘルメットやシートベルトは面倒くさいですが、理由はともかくそうすることが義務付けられているのです。
しかし現在の医療はいうまでもありませんが、医療というものは「医療者と患者さんの協同作業」ですから、患者さん側も病気のことを始めとした全ての事情を十分理解して治療を続けることが求められています。そこで「服薬アドヒアランス」という言葉に変わったのですが、アドヒアランスの意味は「固く守る」ということ以外に「支持する」という意味が含まれます。つまり患者さんは医療者が提案する治療法をよく理解して同意する必要があるのです。現在の医療はほとんどがこのスタイルです。これを「インフォームド・コンセント」ということはご存じだと思います。日本医師会による日本語訳は「説明と同意」なのですが、医療者は患者さんに病気のこと、治療のことなどを解りやすく説明して、よく理解してもらった上でお互いに同意をし、協同して医療を進めるというのが本当の意味です。しかし一部には誤解されている場合もあります。(医師側にも時々見られることですが)患者を説得して何でもいいから同意を取り付けて医療をすすめることでは決してないのです。
これらはともかくとして、高血圧や糖尿病、さらにコレステロールなどが多くなる脂質異常症などの慢性疾患では、自覚症状があまりない場合も多く上述の「服薬アドヒアランス」を保っていくことが重要です。