医療あれこれ
心血管疾患予防のための食事
食事の内容が心臓や血管の病気発症にどのような影響を与えるか、についてはこれら疾患の予防につながることから、多くの栄養疫学的研究結果が公表されています。日本における研究や欧米での大規模研究などをみますと、積極的に野菜、果物、魚を摂取することは心血管疾患を予防することにつながり、逆に食塩や飽和脂肪酸を摂りすぎると心血管疾患発症のリスクを増加させてしまうことになります。これらの結果は、日本における研究結果と欧米での研究結果で大きな相違はありません。
しかし牛肉の摂取、および糖質制限食についての結果は、欧米と日本で研究結果が正反対になっています。つまり日本においては牛肉など動物性タンパク摂取が脳梗塞・脳卒中リスクを低下させ、要介護状態に陥る確立を減少させるという結果でした。つまり牛肉摂取が心血管病変を予防することにつながるというものです。これに対して欧米では、牛肉(赤肉)摂取は心血管疾患を含めた死亡リスクを増加させると報告しているのです。
また糖質制限食については、日本では糖質摂取がすべての摂取カロリーの約半分であれば総死亡や心血管死亡を減少させるとしているのに対して、欧米では糖質制限食は総死亡を増加させることが示されています。
これらの相違はどこから生まれているのでしょうか。それは人種の差や地域差などではなく、摂取量の相違によるものと考えられます。つまり牛肉について日本では摂取量は最近徐々に増加しているとはいえ、まだ欧米における摂取量の約1/4程度の開きがあるそうです。また糖質制限についても、欧米の研究対象となった人のうち糖質制限を積極的におこなっている人はほとんどいなかったそうです。つまり欧米と日本での研究結果の相違は食事として摂取するものの種類、質的な相違ではなく、摂取量が全く異なるという量的な相違によるものと考えられています。以前にこの項で、「赤肉を食べ過ぎると糖尿病になる?」ということをご紹介しましたが、これも「食べ過ぎると・・・」という話なので、極端な肉食はよくないということになるのでしょう。
いずれにしろ偏った食事ではなく、バランスのとれた食事で、しかも食べ過ぎに注意という当然の結論が導き出されているものと思われます 。
引用文献: 中村保幸;日本医事新報 No.4768, 2015. 9.12