医療あれこれ

医療の歴史(34) 再生医療

再生医療とは傷害を受けた生体機能を、さまざまな組織に分化することのできる幹細胞を用いて復元させる医療の総称です。臓器移植とは異なり、臓器提供者を必要としません。また従来の医療では治療が困難な遺伝性疾患などにも対応できる可能性があることなど、革新的な医療といえます。現在わが国はもちろん、世界各国で競って研究・開発が続けられている分野です。

幹細胞として、当初1981年、英国ケンブリッジ大学や米国カリフォルニア大学から報告されたマウス由来の胚性幹細胞(embryonic stem cellES細胞)を用いて研究が進められました。しかし実際の臨床応用に可能性を広げるためにはヒト由来のES細胞が必要です。1998年、米国ウィスコンシン大学でヒトES細胞が開発されましたが、このES細胞は、不妊治療のため実施された体外受精で余った受精卵から作られたため、倫理的な問題がありました。

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2006年、京都大学の山中伸弥教授らは、人の皮膚などにある線維芽細胞に少数の遺伝子を導入し様々な組織の細胞に分化する能力をもつ人工多能性幹細胞 (induced pluripotent stem celliPS細胞)の作成に成功し、2007年世界で初めて論文に報告しました。iPS細胞はES細胞のように受精卵など胚細胞から作られるものではないため、倫理的問題は発生しません。皮膚という入手しやすい細胞から作られますので、患者自身の細胞から作ったiPS細胞により治療が進められるという大きな利点があります。これらの功績により2012年、山中教授はノーベル賞を受賞したのです。