医療あれこれ
医療の歴史(24)外科の革命
麻酔法が開発され、また無菌手術が可能になり、これまで外科手術の発展をさまたげていた二大要因が解決されるようになると、19世紀後半に外科は現代の姿につながる飛躍的発展をとげて行きました。これまでこのページで紹介してきたように、内科医の先祖は祈祷師、外科医の先祖は刃物をつかう散髪屋さんで、医学という学問的には外科医は少し地位が低いとも考えられていましたが、ここに至って外科は、内科と対等あるいは優位な地位になってきたのです。
19世紀には現代の外科学教科書に名を残す外科医が数多く現れました。私たち内科医にとっても馴染み深い外科医はビルロート(1810~1887)でしょう。それまで、外科手術といえば、骨折や外傷などに対するものが多かったのですが、消化器外科を確立して行ったのがビルロートです。
1881年1月29日、胃の切除をするという前人未到の大手術がウィーン大学の外科学教授であったビルロートにより行われました。胃を取ってしまうと、食道と腸をつながなくてはなりませんが、その方法が現在の外科学教科書にも記載されているビルロート法です。右の図はビルロートⅠ法と呼ばれる胃切除後の再建術式を示しています。
ビルロートは胃切除だけでなく、卵巣のう腫の切除、食道切除などの大手術を次々と成功させました。また多くの外科医を弟子として育てました。その中で、最も有名な名前はコッヘル(1841~1917)です。彼の名前がなぜ有名かというと、外科手術の時などに物をはさんだり引っ張ったりする鉗子という医療器具がありますが、先端が針状になっているものをコッヘル鉗子といいます。彼が考案したものですが、今でも医療者がコッヘルというとこの鉗子のことを意味しています。(右の図)