医療あれこれ
医療の歴史(33) 移植医療
20世紀以後、これまでの医学・医療では考えも及ばなかった多くの先進医療が急速な発展を遂げています。
移植医療は、疾患や事故などにより機能しなくなった臓器を、他の人から提供を受けた臓器に置き換えて機能回復を図る医療です。死亡した人から臓器提供を受けるのが原則ですが、生存している健康な人の臓器、あるいは臓器の一部を移植する場合もあり、生体移植といいます。生体移植できるのは、二つある腎臓のうち一つ、60~70%提供しても再生する臓器である肝臓、大きく5つの部分に分かれている肺などがあります。一方、一般的な臓器移植といえば、死亡した人からの移植ですが、このうちでも腎臓、角膜、皮膚などは心臓が停止して死亡が確認された人からの移植が可能ですが、心臓などは一度停止してしまうと移植しても機能しないので、心臓死ではなく脳死として判定された臓器提供者を必要とします。
移植の歴史として、皮膚や眼の角膜移植は19世紀から始まっていましたが、1954年人から人への臓器移植を初めて成功させたのは米国ボストンにあるピーター・ベント・ブリガム病院のジョセフ・マレー(1919~2012)で、一卵性双生児間の移植でした。1963年には世界初の肝臓移植、肺移植が行われ、1967年には心臓移植も世界第一例が報告されています。日本でも1968年札幌医科大学の和田寿郎教授により心臓移植が行われましたが、当時は「脳死は人の死である」とした法整備がなされていなかったため社会的問題となりました。その後、1997年、臓器移植に限って脳死を人の死と認める臓器移植法が施行されました。しかし臓器移植を目的とした脳死判定を実施する例数が少なく、また小児の移植が認められていなかったため、海外で移植を受ける例が後を絶ちませんでした。2008年になって海外でも臓器提供例が不足し、「移植が必要な場合は自国で行うこと」というイスタンブール宣言がだされ、海外での移植が困難になりました。そこで日本では2010年、小児でも移植が可能な改正臓器移植法が施行されています。しかし、日本人の心情的な問題から脳死を人の死とすることが容認されにくいこともあり、近隣諸国に比べて日本の脳死移植例は未だ多くないのが現状です。