医療あれこれ

医療の歴史(122) MRIの開発

 人体の内部に発生した腫瘍など正常状態ではない病変の形を体外から観察して治療するために必要な装置として断層写真撮影があります。この項でも以前から何度か触れていますが、1895年にドイツの物理学者レントゲンにより発見されたX線(医療の歴史25)による医療用のX線写真は胸部疾患などの診断に使用されることになりました。そしてこのX線を用い画像処理により体内の変化を観察するコンピューター断層写真は体の内部を画像で観察できる画期的な方法として広く用いられている医療機器です。このXCT装置の原型を作ったのは日本の高橋信次(医療の歴史104)でしたが、1972年イギリスのハウンスフィールドによってコンピューター断層撮影(CT)装置が実用化されています。ハウンスフィールドはXCTの発明者として1979年にノーベル生理学医学賞を受賞しています。

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 XCTよりさらに詳細に各方向から人体内部の構造やその異常を画像として撮影する方法が核磁気共鳴画像(MRI)です。ごく簡単にいうと、人体に高周波の磁気を与えることにより体内の水素原子が反応して核磁気共鳴をおこし成分の違いにより水分や脂肪分を判別して断層写真が構成される仕組みです。右の写真は頭部の縦断面を示したMRIT1強調画像ですが、この条件では脂肪分が高信号(白く映る)、水分が低信号(黒く映る)となっています。一方T2強調画像では水分が低信号、脂肪分が高信号となりT1画像とは白黒が逆に映し出されます。撮影する部位によりT1画像とT2画像が使い分けることができます。

 このMRI開発に関して1970年頃から日本人を含む多くの研究者が先駆者を目指して業績を公表しており、誰が初めてMRI装置を開発したのかは明確ではありません。1977年、アメリカのダマディアンが全身のMRI実験をおこなったのですが、その1年前にはイギリスのマンスフィールドが人の指を対象とした実験をおこなったことが公表されています。現在の医学・医療の診断において必要不可欠のMRIですが、その発明・開発の業績を称えてこノーベル賞が贈られたのは30年経った2003年になってからです。受賞したのはイギリスのマンスフィールドとアメリカのラウターバーの二人で、ダマディアンは受賞を逃しています。ダマディアン方式によるMRI画像は撮影するのに5時間もの長時間を要したとされ、現在のMRI装置の標準方式とはなっていません。