医療あれこれ
医療の歴史(117) 血圧測定の歴史2
現在、生活習慣病の診療に必須の医療機器は血圧計ですが、今ある血圧計の原型を考案して作ったのはイタリア人シビオーネ・リヴァロッチ(1863~1937)です。この血圧計は、圧力によって細い管に入った水銀を何mm押し上げることができるかによって圧力を測定しました。血圧の単位はmmHgですが、Hgはラテン語で水銀を意味するhydrargyrumからとった元素名Hgで、水銀中を何mm押し上げるかを示しています(ちなみに水銀の英語名はマーキュリーmercury)。なお水銀は有害物質であるため、現在は水銀柱を使った血圧計は使われていません。
リヴァロッチが血圧計を開発したのは1896年とされていますが、当時は触診法で血圧を測定していました。つまり腕帯(カフまたはマンシェットと呼びます)を上腕部に巻き、圧力をかけていくと、上腕の動脈が圧迫され流れが滞り、肘で脈拍が触知されなくなりますが、ゆっくり圧力を下げていくと脈拍が触れるようになります。この時の圧力が上の血圧(収縮期血圧)です。しかしこの触診法では上の血圧を測定することはできますが、下の血圧(拡張期血圧)を容易に測定することはできません。現在のように下の血圧が測定できるようになったのは聴診法が開発されてからの事でした。
1905年、聴診法による血圧測定を開発したのは、ロシアの軍医だったニコライ・コロトコフ(1874~1930)です。聴診器の集音部(チェストピースまたはベル)を肘の動脈にあてて音を聞きながら、実際の血圧より高めの圧力からゆっくり圧力を下げていきます。するとそれまで実際の血圧より高い圧力で腕が圧迫され、動脈の流れが阻害されていたものが、収縮期血圧と同じになった圧力で動脈の拍動音を聴取するようになります。さらに圧力を下げていき、拡張期血圧と同じになると、動脈内を血液は自由に流れ出しますので、拍動音が急に小さくなり、あるいは聞こえなくなりますが、この時の圧力が拡張期血圧です。このように圧力により変化する聴診音を開発者の名にちなんでコロトコフ音とよんでいます。私たち医師はこの原理により血圧計と聴診器で血圧測定をしているのです。
なお自動血圧計も開発されていますが、このコロトコフ音の変化に基づいた原理では正確性にかけるため、超音波により収縮期・拡張期血圧を測定する血圧計が開発されました。しかし超音波を用いるため装置が大掛かりになることから現在、家庭での血圧測定に用いられている自動血圧計は振動の変化を用いたものとなっています。血圧高めの人に限らず家庭血圧の測定は健康管理に重要です。現在は比較的安価な血圧計が入手可能になっていますので、もし血圧計をお持ちでない方はぜひお求めになり、日々の血圧をチェックするようにしましょう。
引用文献 久保田博南:血圧測定の歴史.医機学(2010)、80、615~621.