医療あれこれ
「幸福とは何か?」を科学的に解明
人は幸福な人生を送りたいと常に思うでしょう。しかし「幸福とは何か」という問いは古代の哲学者や宗教者以来、永遠の課題でした。このたび京都大学の研究グループが脳の解剖生理学的所見と幸福を感じるメカニズムに関する研究成果を公表しました。
(Sato W, Kochiyama T. et al. Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-019-48510-9)
研究対象者は、平均年齢22.5歳、51人の男女で、幸福を感じる機能と関連があるとされる脳の部位(大脳頭頂葉の内側にある右楔前部という部位)の活動性を核磁気共鳴機能画像法で計測し、質問紙法で得られた対象者の幸福度との関係を調べました。その結果、右楔前部の活動性が低いほど幸福度が高いことが判りました。楔前部の働きは、否定的な自己意識、心の迷い、執着する心に関連するものとされています。つまり簡単に言うとさまざまな心の迷いや悩みといった幸福感を妨げる精神的要因を処理する働きをしているものなのでしょう。この楔前部があまり活動しないということは、精神的な迷いなどがなく、結果的にその人は幸福を感じていることを示していると考えられます。
さらに感情を処理する働きがあるとされる右側頭葉の内部にある扁桃体の活動性と、楔前部の活動性との関連を調べたところ、両者は機能的結合が強いことが明らかになったそうです。つまり、処理しなければならない精神的悩みなどが少ないほど、その人は幸福だと感じている状態だということができるでしょう。
これらの幸福感に関する人の脳内ネットワークは今回世界で初めて明らかにされたことで、「仏陀やアリストテレスが取り組んできた"幸福とは何か"という問題に自分なりの科学的解答がだせて、幸福です。」という研究者のコメントが最後に添えられています。
(京都大学 研究成果 佐藤弥、河内山隆紀 他 幸福の脳活動を解明 2019年8月26日)