医療あれこれ
注意を要する腰痛
一生のうちに一度は経験することが多い体の訴えに腰痛があり、日本人のうち腰痛があるという人は1000万人以上と言われています。特に30歳代、40歳代の働き盛りの人では7割が腰痛を訴えているそうです。長時間にわたって同じ姿勢で仕事をしている、逆にずっと立ち仕事をしている、あるいは仕事がいそがしくて運動不足だ、などの悩みがある人には多いと考えられます。
一般に腰痛というと骨や筋肉など体を支える組織の不調に原因があると考えられ、事実このように整形外科的な問題が多いようです。そこで痛みに対しては鎮痛薬などの薬を服用する、あるいは腰痛体操、また整体院や鍼灸院を受診して治療を続けている人も多いでしょう。しかし2019年度『腰痛診療ガイドライン』策定委員長で福島県立医科大学会津医療センター副院長の白土修先生は、腰痛で見逃してはならない三大疾患があるのだといいます。それは、ガン、感染症、骨折なのだそうです。
慢性に腰痛をきたしてくるガンは最終的に生命を左右してくる重大な問題です。ガンのうちでも骨転移をきたしやすいものがあり、腰椎転移が生じると重症の腰痛が発生します。どのようなガンでも骨転移の可能性はありますが、特によく認められるものに前立腺ガンがあります。前立腺ガンは中年男性における排尿困難の原因になりますが、排尿にかかわる症状がない場合でも腰痛の訴えがあり調べてみると前立腺ガンであったという場合も珍しくありません。
感染症が原因の腰痛では、化膿性脊椎炎など整形外科的な重症感染症のことも考えられます。この場合もひどい腰痛をきたしますが、感染症治療をおこなわない限り痛みはとれません。さらに高齢者の骨折のうち腰椎圧迫骨折は、転倒やしりもちをつくなどの原因で、積み木のようにつながっている椎体の間隔がなくなってしまい、その間を走行している神経が圧迫されて足の痛みを伴う腰痛がおこります。整形外科的疾患では、骨折の他、腰椎椎間板ヘルニアや変形性脊椎症、脊柱管狭窄症などがあることはいうまでもありません。
さらに急激に発症する腰痛では、腹部大動脈の血管壁が裂ける大動脈解離は直接生命危機に係わります。また卵巣など婦人科的疾患にも気をつける必要があります。さらに心理的圧迫による痛みが腰痛として発現する、さらに人間関係や仕事上の問題など社会的要因による腰痛などにも注意する必要があるでしょう。
いずれにしろ腰痛は歳のせいだと片付けないで、また明確な原因疾患が存在する可能性を調べないまま、鎮痛薬や貼り薬を用いるのではなく、一度は医療機関を受診して総合的な診断を受けられることをおすすめします。