医療あれこれ

高齢者の貧血は認知症のリスクになる

 貧血とは血液中の赤血球にあるヘモグロビンの全体量が減少した状態をいいます。ヘモグロビンには酸素を全身に運搬する役割がありますから、これが減少すると全身の各臓器で酸素欠乏状態が起こりいわゆる貧血症状をきたすことになるのです。例えば脳での酸素欠乏は、めまいやふらつきの症状(一般に脳貧血といわれる)が起こります。またこの状態を少しでも緩和するために心臓は拍動数を増やして酸素を運搬しようとすることから動悸などの症状が現れ、全身での酸素欠乏により息切れなどの症状がみられるようになります。

 これらのことから少しでも貧血の傾向があると、脳の活動性が低下して認知症になりやすいことが容易に想像されますが、これを疫学的に証明しようとする大規模研究がオランダでおこなわれ、その結果が公表されました。

Frank J. Wolters et al: Neurology, July 31, 2019,

DOI: https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000008003

平均年齢が約65歳の参加者12000人のうちアルツハイマー病などの認知症ではなくその他の疾患もないと診断された5,276人についてヘモグロビン濃度を測定し12年間にわたって経過観察がおこなわれました。

追跡期間中に、1,520人が認知症を発症し、そのうち1,194人がアルツハイマー病でした。

ヘモグロビンとの関連を解析したところ、ヘモグロビンが低下、すなわち貧血のある人は貧血のない人と比べてアルツハイマー病の発症リスクが41%高く、アルツハイマー病を含む全ての認知症の発症リスクも34%高いことが分かったといいます。さらにヘモグロビン濃度が正常より高い人でも認知症を発症するリスクの上昇が認められ、ヘモグロビン濃度が最も高い群では、中程度の群と比べて20%のリスク上昇が認められたそうです。つまりヘモグロビン濃度が高すぎても低すぎても認知症になるリスクが高いことが明らかになったのです。

この研究の報告者は、原因は明らかではないといいます。別の専門家のコメントによると、脳に酸素を運ぶヘモグロビンの働きを考えて、脳の酸素が急速に、あるいは徐々に失われて認知機能が低下し認知症を発症する一方、その異状に対する生体の反応としてヘモグロビン濃度が逆に上昇して血液の濃度が高まり、脳への血流が悪化すると説明しています。また研究の参加者は一見健常である人たちですから、わずかなヘモグロビン濃度の変動でも見逃さず対応することが必要だと述べています。