医療あれこれ
寄生虫ダイエット
人間の腸に寄生虫がいると体重増加が抑制されダイエット効果になるということが注目されています。ソプラノ歌手だったマリア・カラスは、その美声を保つための脂肪摂取が多かったことが原因で肥満体質にあったのですが、その体重抑制のため腸に寄生虫のサナダ虫(裂頭条虫)を寄生させ、105kgあった体重を50kgに減量させたことが知られています。サナダ虫は長ければ10m以上の長さになる寄生虫ですが、自身の体表面から栄養分を吸収するとされ、これにより人が摂取した脂肪分を吸収させ、ダイエット効果を示すとされていました。このほど実験的にこの寄生虫ダイエットの機序を明らかにしたという学術論文の発表がありました。(Shimokawa C, Hisaeda H et al; Infect Immun
2019 April 8 doi 10.1128/IAI. 0002-19.)
その動物実験は、高脂肪食により20%体重増加という肥満にさせたネズミ(マウス)を用いました。寄生虫(この場合は蠕虫)を寄生させた群とさせない群の比較検討をしたものです。食餌量は両群で差はなかったものの、非寄生群で体重増加があったのに対して寄生虫群では有意な体重減少が認められ、血中の中性脂肪などが有意に低下しました。
この機序の詳細を検討すると、寄生虫群では非寄生群に比べて腸内細菌叢のうちエシェリキア属やバシラス属といった腸内細菌が増加する変化が認められました。エシェリキア属やバシラス属は神経伝達物質のノルエピネフリン分泌を増加させます。これにより脂肪細胞からの熱産生を上昇させるUCP1という物質が上昇し、エネルギー代謝が亢進することにつながります。結果的に寄生虫群マウスの体重増加が抑制されたというコースが明らかになったのです。脂肪摂取が多くても、そのエネルギー源が代謝されることにより、寄生虫をもつ生体の体重が有意に減少するというダイエット効果が現れると考えられます。
寄生虫によるダイエット効果のメカニズム詳細が明らかとなり興味深いことですが、マリア・カラスのように自分の体にサナダ虫を寄生させてダイエットしたいと考える人が増えてくるでしょうか。