医療あれこれ
体内の鉄分代謝
最近話題になっているニュースで、陸上競技で長距離ランナーが体力維持のため鉄剤を注射していることが問題になっています。鉄は赤血球に含まれるヘモグロビンの原料であり、ヘモグロビンは酸素と結合して肺から全身に酸素を運搬する役割があります。従ってヘモグロビンが低下(この状態を貧血といいます)したとき、全身の筋肉は酸素の供給が低下することから、長距離ランナーなどの運動能力が低下することが考えられます。そこでこれを補正する目的で使用され始めたのが鉄剤を静脈注射して直接鉄分を補い全身に十分な酸素を送ることにより持久的運動能力を高めようとする対策です。
鉄分が不足してヘモグロビンが低下した状態を鉄欠乏性貧血といいますが、他の原因による貧血に比べてこの鉄欠乏性貧血が多くを占めます。鉄欠乏性貧血の治療として、鉄分を投与するのですが、通常は鉄分の飲み薬を服用します。しかし胃の症状などの副作用として内服が困難な場合などでは注射薬が使用されます。
鉄剤の注射は、実際にヘモグロビン低下という貧血があり、内服薬の使用ができない場合に限られるのですが、いま問題になっているアスリートへの鉄剤注射は貧血ではないスポーツ選手、あるいは貧血かどうか検査されていない選手に投与されることが問題になっているのです。もし過剰に鉄分が投与されると、ヘモグロビンの代謝産物が全身各臓器に沈着するなどの健康被害が発生してしまいます。
それでは体内にどれほどの鉄分があるかというと、総量は3~4gが貯蔵鉄として存在しています。通常はこのうち約70%が赤血球に含まれるヘモグロビン鉄として利用されています。赤血球の寿命は4ヵ月(120日)ありますから、毎日1/120 の赤血球が壊され新しい赤血球が作られているわけで、ヘモグロビン鉄は20~25mg が再利用されているのです。これに対して腸から新しく鉄分として吸収する必要がある量は1~2mgとごく微量です。もし出血などが全くなければ毎日の食事で必要な鉄分はこの1~2mgで十分なのですが、女性の場合は毎月の生理出血がありこれ以上の鉄補給が必要となります。さらに子宮筋腫など婦人科疾患や胃腸疾患などで慢性的に微量の出血が続くような場合には注意が必要です。
なお食品に含まれる鉄分にはヘモグロビンに利用されるヘム鉄と、それ以外の非ヘム鉄の2種類ありますが、レバーや肉類に含まれる鉄はヘム鉄であるのに対して、ホウレン草やヒジキなどの鉄分は非ヘム鉄です。さらにヘム鉄の吸収率は20~30%であるのに対して、非ヘム鉄の吸収率は1~8%とされており、やはり肉類の方が効率的に鉄分を摂取できます。