医療あれこれ
甲状腺ホルモン不足で認知症
通常、認知症というとアルツハイマー病に代表される脳細胞の変性による機能障害が原因で発生するものが知られています。実際に認知症のうち60%以上がアルツハイマー病ですが、他にも血管性認知症やレビー小体病、前頭側頭型認知症など様々な病態をもつ疾患があります。さらに他の疾患が原因で認知症の症状をしめす二次性認知症が少なからず知られています。この二次性認知症のうち原因となる疾患によっては、それを治療するだけで認知症の症状がなくなる治癒可能な認知症があるのです。この二次性認知症には正常圧水頭症、薬剤誘発性認知症や内分泌性認知症など多くの病態があり、認知症診断の際には、これらの疾患が原因になっていないか鑑別診断が必要です。
これらのうち内分泌性認知症の一つである甲状腺機能低下症は、不足した甲状腺ホルモンを補充することによって症状をとることができる治癒可能な認知症です。慢性甲状腺炎によるいわゆる橋本病は甲状腺ホルモンが不足する疾患の代表的なものです。甲状腺ホルモンは体の代謝を亢進させるホルモンですから、これの不足による症状が現れます。体のむくみ(浮腫)、体重増加、コレステロールなど脂質の増加、皮膚乾燥、脈が遅くなる、疲れやすい、無気力などが典型的な症状です。このうち無気力で俊敏に考えがまとまらない症状は認知症と捉えられる最大の原因でしょう。これらの典型的な甲状腺機能低下症症状をきたすものは、あきらかに甲状腺ホルモンが低下した場合ですが、高齢者では、わずかながら甲状腺機能低下状態に至ることが知られています。75歳以上の人の約20%は治療の必要性は別としても甲状腺機能低下状態にあるとされています。認知症が年齢とともに増加してくる一つの要因にもなると思われます。
これらのことから、認知症と診断して、認知症のお薬を処方する時には、当然、甲状腺ホルモンは正常なのかを調べておく必要があります。しかし最近の調査で抗認知症薬処方の前に甲状腺機能検査が実施されている割合は全体の1/3(32.6%)しかないということが示されています。認知症疾患医療センターにおいてすら、診断時に甲状腺機能検査を実施しているのは57.1%で、40%以上の人において甲状腺が原因で認知症をきたしている可能性が見過ごされているといいます。甲状腺検査で治せる認知症を探すことが求められているのです。
ちなみに末廣医院では、認知症が疑われる患者さん、とくに抗認知症薬の処方を開始する時には可能な限り甲状腺機能検査を実施しておりますので念のため申し添えます。
引用文献:日経メディカル 2018年10月号、P22~23.