医療あれこれ
「老衰」という死因
厚生労働省の統計によると、日本人全体の死亡原因第1位は「がん」で年々増加し続けています。以下2位「心臓病」、3位「肺炎」、4位「脳卒中」と続き、第5位「老衰」となっていますが、この老衰による死亡は近年著しい増加の傾向を示しています。老衰は生物学的・医学的にいうと年齢を重ね老化することに伴って、身体を構成する細胞や組織の能力が低下することとなっています。このことにより身体の恒常性の維持が困難になる、つまりある一定の健常な健常な体を維持することができなくなり死亡に至るものです。それでは老衰はどのような基準で診断され、死亡原因として登録されるのでしょうか。
死因統計のよりどころとなる死亡原因は、医師が死亡診断をした時に作成される死亡診断書の直接死因に基づいています。厚生労働省の死亡診断書マニュアルには「死因としての老衰は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用いる」と書かれています。がんや心臓病など明らかな死亡原因となる疾患がない高齢者の死亡原因が老衰となるのです。
1950年以前、現在のように詳細な検査診断ができなかった時代には老衰死が統計的に多かったのですが、医療技術の進歩によりさまざまな死に至る病態が解明されるようになり、老衰が原因の死亡数は激減します。しかし超高齢社会となった現在、元気で生活していた人が明らかな病気がないけれど年齢とともに体が衰え死亡する老衰死の割合が増加する傾向に転じています。年齢別の内訳で、1980年代頃までは老衰死の過半数が70-80歳代だったけれど、2000年以降は90歳以上が大半を占めるようになっているそうです。医療従事者専用サイトM3がおこなった意識調査でも亡くなった90歳以上になると老衰という死亡原因は適切であると考えている人が最も多かったといいます。
それでは老衰死と診断する明確な基準は?というと明記された診断基準はありません。担当医が状況を考慮して適宜判断しているのです。この判断の中には、患者さんの家族の意向などが含まれている場合があります。もちろんご家族に判断を任せているわけでなくても「亡くなったのはもう齢ですから・・・」と考えていらっしゃると、それが医師の判断に影響を与える可能性があるのです。病気や事故で亡くなるより老衰死のほうが、家族にとって死を肯定的に受け入れやすく、自責感が和らいだりするなどの配慮が働いているケースもあるということだそうです。
一方、日本経済新聞社が昨年末に公開した調査結果によると、老衰死が多い自治体ほど高齢者1人あたりの医療費が低くなる傾向があったそうです。その反面、老衰死が増加してもその人に要した介護費は増加しないという結果も示されています。亡くなった人には長期にわたって治療を受けるような疾患が少なかったということでしょうか。
引用:医療従事者専用サイトM3 時流2018年1月19日 (金)配信