医療あれこれ

腎性貧血について

 貧血とは、赤血球に含まれるヘモグロビンが低下した状態です。ヘモグロビンは日本語で血色素といい、赤色をしています。赤血球が赤色なのはヘモグロビンを含有しているからです。そして血液自体が赤色なのは、他の血球(白血球や血小板)の数に比べて赤血球数が圧倒的に多いからです。赤血球数は血液1立方ミリメートルあたり400万個ぐらいありますが、白血球は5,0006,000個、血小板は白色で15万~30万個ありますがサイズが小さいので血液の色調には関係がありません。

 ヘモグロビンの役割は全身に酸素を運搬することです。肺の血液循環で赤血球に含まれるヘモグロビンに酸素を積み込み、全身の組織に運搬しているのです。そこでもしこのヘモグロビンが少なくなると全身の各組織で酸素が不足して症状が出現してきます。例えば脳では酸素不足によりめまいや立ちくらみなどが発生します。体を動かした時にはこの酸素不足が明らかとなり、呼吸困難が出現してきます。

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これを少しでも改善しようとする身体の反応は、できるだけ血液循環を増やして全身に酸素を運搬しようとすることから、心臓の拍動が増え動悸を感じるようになったりします。これらの症状は一般に貧血症状と言われているものです。よく貧血といえば右のイラストのように「めまいや立ちくらみが起こること」と思われている場合がありますが、これはヘモグロビンが減っているため脳での酸素不足が原因で発生している症状を表現しているだけのことで(脳貧血ということばもありますが)全身の貧血というわけではありません。

 ところで、赤血球は(他の血球;白血球や血小板も同様ですが)全身の骨の中央部(骨髄)で作られています。その時、特に赤血球を造り出す造血因子が必要で、その一つにエリスロポエチンという物質が必要なのですが、このエリスロポエチンを生成しているのが腎臓です。腎臓の働きが悪くなった慢性腎臓病(CKDといいます)ではこのエリスロポエチンが減少して赤血球が作られない、つまり貧血になってしまうのですが、これが腎性貧血です。

 よく貧血になると鉄分を補給する必要があると言われます。鉄はヘモグロビンの原料なので、慢性の出血などがあり、原料である鉄が不足してくるとヘモグロビンが減り貧血(鉄欠乏性貧血)になりますが、このタイプの貧血が最も多いので、貧血の治療イコール鉄分補給と考えられてしまいます。しかし例えば今回の話題である腎性貧血では鉄分をいくら補給しても貧血は治りません。腎性貧血の治療にはエリスロポエチン補給が必要であることはお判り頂けたと思います。鉄剤を投与する場合は、血液検査で鉄分が不足していて、さらに体の中に蓄えられている貯蔵鉄の指標であるフェリチン値が少ないということが明らかにされた時であるということを理解して下さい。