医療あれこれ
「胸やけ」という症状
胸やけは、前胸部にある胸骨の後ろが焼けるような不快感や痛みを訴える症状です。時には心臓痛のように感じられることから、症状だけでいうと狭心症と見誤れることもあったりします。
原因として通常、胃酸が食道に逆流する減少(胃食道逆流症;GERD)により、胃液中の塩酸が食道の粘膜を障害する逆流性食道炎が想定されます。しかし胸やけのある人に胃カメラを使って食道の粘膜を観察しても、明らかな胃酸による粘膜障害がない場合も多く、この場合は炎症所見がないわけですから逆流性食道炎という診断名は適切とは考えられません。このような時、非びらん性GERD、つまり食道粘膜があれている状態(びらん)がない胃液の逆流、あるいは「機能性胸やけ」などの診断名が付けられます。これらを正確に診断するためには、酸性・アルカリ性を検知できる24時間pHモニタリングや、食道運動機能検査(食道内圧検査や食道造影検査)をおこなう必要があります。
2016年5月に機能性消化管障害の診断基準が改訂されました。その中で機能性食道障害では、これまでの機能性胸痛や機能性胸やけとともに、新たに逆流性過敏という概念が提唱されています。明らかな胃食道逆流がある場合はその治療として胃酸分泌抑制薬が効果を示しますので、食道粘膜に障害がおこっている逆流性食道炎および、非びらん性GERDの両方とも症状改善効果が期待できます。これに対して機能性胸やけは異常な胃食道逆流がないため、胃酸分泌抑制薬では効果が期待できないことになります。胸やけ症状を訴えて胃腸科専門医を受診した人のうち機能性むねやけと診断されるのは10%以下とごく少数であるとされています。しかし胸やけ症状に対して胃酸分泌抑制薬が投与されても症状の改善が認められない場合は、胃食道逆流の有無を胃腸科専門医で調べてもらう必要があるかも知れません。