医療あれこれ

腸内細菌と糖尿病

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 人間の腸内には数1000種類、約100兆個の腸内細菌が存在します。それぞれの菌種は集まって微生物群生態系をつくり、「腸内フローラ」と呼ばれています。この構成が食習慣や年齢などで異なり、肥満や糖尿病の発症に関係することが知られるようになりました。

 人の消化液に含まれる消化酵素では食物繊維を完全に分解・消化が困難です。しかし腸内フローラはこの食物繊維を発酵してエネルギー源を作り出す作用のあることが判ってきました。人が一日に必要とされるエネルギーのうち約810%は、大腸での腸内細菌による発酵によって供給されるのです。

 一方、糖尿病の病態に強く関与するインスリン分泌には、小腸から分泌される消化管ホルモンであるインクレチンの役割が大きく関与します。その代表がGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)で、GLP-1受容体作動薬や、GLP-1を分解・活性化してしまうDPP-4という物質を阻害する糖尿病治療薬が新しいタイプの薬剤として、糖尿病治療に用いられています。腸内フローラはこのインレチン分泌にも大きく関与することが明らかにされています。つまり腸内フローラはさまざまな方向から糖尿病発症に関与しているのです。

 さらに腸内フローラの乱れは糖尿病発症前段階の肥満に関与することも知られ、インスリンの効果が十分でないインスリン抵抗性を起こすことも判ってきました。

 糖尿病の食事療法で食物繊維を多く摂ることが推奨されますが、食物繊維は腸内フローラによって分解される作用のあることから、腸内の環境を良好に維持する役立っていることも重要な作用ということができるのです。

文献:金澤昭雄、綿田裕孝、日本医事新報(2016.11)201632-38