医療あれこれ
自宅で死を迎えるガン患者
日本において、病気で死亡する人の8割は病院で亡くなります。従来、医療の目的は「少しでも延命することが大切である」という考えでした。近年この考え方に代わって、人生の最期は心身ともに苦痛のない安静な状態とすることに重点をおいた対応が主流になっています。特にガン末期となると少なからず「体の痛み」にどう対応するのかが問題となってきます。このように死が避けられない病気の人の身体的苦痛を取り除き、心の安らぎを保つことを目的とするのが「ホスピス」、あるいは「緩和ケア」と呼ばれる対応です。患者さん自身も余命数ヶ月となれば「最期はホスピス病院や緩和ケア病棟に入院したい」とアンケートで回答した人は約4割にのぼります。
それでも、できれば永年慣れ親しんだ自宅で最期を迎えたいと思っている人は8割を超えています。これに反して現実にはほとんどの人が病院で亡くなっているのです。最期の時を自宅で過ごすことの問題点として、家族など周囲の負担もありますが、自宅で受けられる治療の質が病院に比べて劣り、生存期間を極端に短くする結果にはならないのかという懸念もありました。
これらの問題に一つのヒントを与える研究結果が筑波大学から公表されました。それは日本における大規模研究で、病院で死亡した約1600人と自宅で死亡した約600人を比較検討したところ、自宅で最期を迎えた人の生存期間が、病院で死亡した人のそれより大幅に長いことがわかったというものです。つまり自宅でも適切なホスピスケアがあれば患者の命を縮めることはなく、むしろ生存期間が延びる可能性があることを示すものです。この結果は米国ガン協会の医学誌「Cancer」オンライン版に掲載されています。研究著者の浜野淳講師は「患者、家族、医療者を安心させるものだ」と述べています。
出典:m3.com 臨床ダイジェスト(2016年4月10日付)