医療あれこれ
脳動脈瘤とクモ膜下出血
クモ膜下出血は脳を包む3種類の膜のうち内膜と外膜の間にあるクモ膜の内側で、脳の表面に出血する病気です。脳実質内の出血ではないので、脳出血と異なりマヒなどの神経症状が現れることは通常少ないのですが、突然の激しい頭痛が出現し意識障害をきたす場合が多く1/3ぐらいの症例では死亡につながってしまいます。このクモ膜下出血の原因として最も頻度が高いのは、脳動脈の一部が瘤状にふくれる脳動脈瘤の破裂です。
脳動脈瘤は比較的大きな血管の枝分かれした部分にできやすく、破裂することなく明らかな症状が現れない未破裂脳動脈瘤は30歳以上の人の約3%で、男性より女性の方が1.6倍多く、50歳以上になると2.2倍多く発見されるとされています。この未破裂脳動脈瘤が破裂する確率は年間に約1%と想定されます。従って別の脳症状があり脳の精密検査が実施された場合や、脳ドックなどで施行されたMRA(磁石を使って脳血管を調べる検査)などでたまたま未破裂脳動脈瘤が発見されたとき、これをどうするかが問題となります。つまり放置しておくと破裂してクモ膜下出血を発症してしまう可能性もありますが、ずっと未破裂のままの可能性の場合も多いわけで、治療を施すのか経過観察とするのかの選択が必要なのです。
現時点で未破裂脳動脈瘤に対する特別な内科的治療はありません。高血圧があれば当然破裂しやすいので高血圧治療は必須ですが、これを使えば脳動脈瘤が小さくなったり消失したりするような薬剤はありません。一部にコレステロール値が高い脂質異常症に一般的に用いられているスタチン製剤が有効ではないかという報告がありますが、確立されたものではありません。
外科的治療は大きく分けて2通りあります。1つは開頭手術で脳動脈にクリップをかけて血液を遮断してしまうクリッピング術、もう1つは血管内にカテーテルという管を挿入して動脈瘤のなかにコイルを注入して動脈瘤を固めてしまうコイル塞栓術です(右の図)。さらにコイル塞栓術には最近、ステントという金属のトンネルのような構造物を挿入してコイル塞栓と同時に血管を補強する新しい方法も開発されています。クリッピング術は開頭手術という処置を伴い患者さんへの身体的負担も大きいですが、以前から思考されている方法で実績があり確実であるという利点があります。一方コイル塞栓術は大がかりな手術は必要ない反面、ステント併用という新しい手技も開発されているように効果が不十分である可能性も残されます。
以上のことから未破裂脳動脈瘤の破裂する可能性を慎重に検討する必要があります。一般に脳動脈瘤のサイズが少しずつ大きくなってくる場合、破裂の危険性は高いと判断できます。このため未破裂脳動脈瘤のある人は少なくとも半年から1年に1回の定期的検査が推奨されます。また脳動脈瘤が近くを通っている眼を動かす働きをしている動眼神経を圧迫して、瞼が開きにくいとか眼球運動の障害からものが二重に見えるなどの症状があると、症状のない人に比べて4.4倍破裂の可能性が高いとのデータがあり、速やかに治療を検討することが必要とされています。
引用文献 石橋敏寛、日本医事新報 No.4774 2015.10.24 18-22.