医療あれこれ
C型肝炎はなおる時代となった
肝臓が何らかの感染症によって機能障害を起こすことは紀元前ヒポクラテスの時代から知られていました。しかしウイルスを発見する方法がなかった時代にはウイルス性肝炎を診断するすべもなく長期間が経過したのです。今からわずか60~70年前になってウイルス性肝炎として、食べ物や飲み水から感染するA型肝炎ウイルス、血液を介して感染するB型肝炎ウイルスが発見されたのです。A型肝炎は発症すると肝機能が急激に悪化し、黄疸などの症状が出現しますが、慢性化することはなく、治ってしまいます。B型肝炎は一部に慢性化する例がありましたが、まだ経過はよいものが多かったのです。しかしA型でもないB型でもないウイルス性肝炎が存在することが知られていて、このウイルスが非A・非B肝炎ウイルスなどと呼ばれる時代を経て、C型肝炎ウイルスがはっきりと確認されたのは40~50年前のことです。
C型肝炎ウイルスの感染後、急性肝炎の時期があり、多くが慢性化し慢性肝炎となります。しかしこの時期までほとんど自覚症状がなく、検査でウイルス陽性であることが判明するまで診断がつきません。そして気が付いた時には肝臓が硬く変化して肝機能を失ってくる肝硬変になって初めて臨床症状が出現し、C型肝炎ウイルスに感染したことが判明することも多かったのです。肝硬変になると食道粘膜の静脈が腫れる食道静脈瘤などが出現してきて、これが破裂すると大量吐血を起こしてそのまま死に至る場合もあったでしょう。また肝硬変は悪性腫瘍である肝細胞がんを合併することが多く、いずれにしても死亡率が高い状態に陥ってきます。
そこで、C型肝炎ウイルスを除去する方法が模索されましたが、それは簡単な話ではありませんでした。1980年代になってインターフェロンというC型肝炎ウイルスにも有効とされた薬剤が用いられるようになりました。しかし日本人に多いといわれたⅠ型ウイルスに対しては有効性が低いばかりでなく、インターフェロン投与は点滴による静脈内投与で、発熱や全身倦怠などの副作用も多く、入院加療が必要でした。しかも有効率も高くありませんでした。しかしC型肝炎をそのままにしておくと上述のように死に至りますから、多くの感染者はこれにすがって治療したものでした。
その後、リバビリンなどC型肝炎に有効な薬剤とインターフェロンを併用する治療が標準的になりましたが、有効率は50%ぐらいでした。この時代を経て、2010年代に入ると、入院して点滴を受けなければならないインターフェロンに代わって、有効率が90%弱ある経口薬(のみぐすり)が開発されたのです。現在いくつかの薬剤が使用可能となっていますが、慢性肝炎に続いて肝硬変が進行した状態、つまり手遅れになった症例や、たまたま薬剤が効かないタイプのウイルス以外はC型肝炎を除去することができるようになったのです。
手遅れ状態になる前に、C型肝炎は自覚症状がありませんから、一度はC型肝炎ウイルスの検査を受けておくことが必要です。もし陽性であれば、この経口薬によって治療することができます。一昔前、インターフェロンに頼って治療していたことに対して、現在はこのインターフェロン・フリー療法が主流になってきています。